
F interview 03
自分の音楽で、日々を幸せに生きて欲しい

ミュージシャン・Tom-H@ck
作曲家、ギタリスト、実業家。代表作は『GO! GO! MANIAC』『Silent Solitude』等。大石昌良とのユニット『OxT』やKIHOW、hotaruとのユニット『MYTH & ROID』でも活動中。ロックやジャズ、オーケストラなど様々な要素を融合させたジャンルレスなものを作るのが特徴。
また音楽業の傍ら、株式会社「TaWaRa」や「CAT entertainment」といった音楽マネジメントを主に行う会社の代表取締役も務めている。
勉強意欲や向上心、上昇志向が非常に高いTom-H@ck様に話を聞いてみました。
Tom-H@ck
サウンドクリエーター・アーティスト・プロデューサー
CAT entertainment 代表取締役
音楽の道を志した動機や経緯
我が家が300年くらいずっと続く建築家一家なのですが、父と祖父が音楽を大好きな家庭で育ちました。ただ私に兄弟がおらず一人っ子なので、音楽の道に進んでしまった事で自分が代々続く建築家(の流れ)を全部ぶった切ってしまったという感じではあります。
物心ついた時には既に家の中でずっと音楽が流れてる環境だったのですが、父がオーディオマニアでもあったので機械がすごく多くて、父はギターを弾いて、祖父は尺八を吹いて、という音楽に囲まれている家庭でした。
幼い頃に父からピアノを勧められたんですけど、「ピアノをやる男の子ってダサい」みたいな価値観が地元には当時あったんですよね。運動出来たりとかアクティブな方がかっこいい、みたいな幼い頃特有のデリケートな時期がありましたので、ピアノをずっと拒んでたんです。
音楽も好きかって聞かれたら当時は別にそんなに好きじゃなかったです。ただ、好きなJ-popアーティストはいたので、日常的に聴くということはするんですが、(楽器の演奏を)するということはしなかったですね。
私の中でこれが人生のターニングポイントになるのですが、中学3年生の時に、当時好きな女の子がいて。なんとか付き合うことは出来たんですけど、すぐに別れてしまったんです。すごく好きだった事もあり、ショックも当時すごくて。
その当時『ポルノグラフィティ』さんの『サウダージ』という曲がちょうどリリースされた時期で、その曲の歌詞を見ていただければわかるのですが、別れの歌だったんです。それを聴きながら、傘もささずに大雨の中、公園で1,2時間くらい号泣して。そしたら少しだけ心が軽くなったんです。「これってすごいことだな」「こんなに辛かった人間の心が音楽ひとつでこんなに変わるんだ」というのをそこで体感したのを覚えてます。
よくミュージシャンが「モテたいから(楽器を)始めた」というのが最初のきっかけだった、というのがよくあるですが、私の場合全くそういうのはなかったです。あの時音楽に救われたっていう経験が「困ってる人、苦しんでる人に遠くからアプローチできるのであれば、人を救うために音楽をやろう」と思って。
少しクサく聞こえるかもしれないですけど、本当にそういう想いで音楽を始めましたね。
影響を受けたアーティストや曲
まず音楽をやる人間は、大きく分けてふたつに分類されるんです。
人前に出て歌ったり演奏したりする『アーティスト』と、作曲家や編曲家などである『職業音楽家』です。
アーティストと職業音楽家というのはまったく違っていて、アーティストはひとつのジャンルを極める人たち。だけど職業音楽家っていうのはなんでも出来なくてはいけない。ボサノヴァでもジャズでもロックでもオーケストラでも、発注がきたら希望に合わせた楽曲をなんでも作れなくちゃいけない人たち、というのが職業音楽家です。
私自身最初はアーティストを目指したわけではなく、「職業音楽家でプロフェッショナルになりたい」と思った人間なんです。10代の終わりに音楽を志した時から、職業音楽家になりたいと決意して東京に来ました。
職業音楽家を目指す上で好きでも好きじゃなくても、世の中にある音楽を全部聴いていこうとまずは思って、当時の私の年齢だとビートルズとかは好んで聴いてこなかったのを積極的に聴いたり、あとジャズでいうとウェス・モンゴメリーとか、「あまり好きな音楽ではないけど聴いておかなくちゃいけない」というのを自分に課して、様々な音楽をずっと聴いてきました。
プロを目指していくなかで色々な人からまんべんなく影響は受けましたが、その中で1番影響を受けた人は、百石元さんという、私の師匠に当たる方です。SMAPさんを始め様々なJ-popアーティストに楽曲を提供していて、後に私の代表作にもなるTVアニメ『けいおん!』のBGMも作った方です。
その百石さんに、当時のSNSで「ぜひ弟子入りさせてください」というふうにコンタクトを取ったところ師事していただくことになりまして、21歳から23歳までのおよそ2年半、毎日1日中百石さんにしごかれていました。
これは本当にあった話なんですが、夜中の3時半に急に電話がかかってきたんです。その時私はオーケストラの楽曲を制作していたのですが、「お前こんなチェロのライン書いたら一生仕事来なくなるぞ」という手厳しい連絡が、夜中にも関わらず (百石さんから) 電話があったこともありました。
1番影響を受けたという意味では百石さんに大きく影響を受けたと自分でも思います。
また音楽制作のクオリティはもちろん、音楽業界でやっていく人間力についても学びました。性格が悪い人からどんどん淘汰されていくので、良い人間であれということも含めて、百石さんには教え込まれたっていうのが答えとしては一番適していると思います。
音楽以外で影響を受けたもの
私自身色々なものに興味がある人間ではあるのですがキャンプや釣りなどアウトドア全般は大好きです。漫画だと『NARUTO』ですかね。映画だと『インターステラー』や『ハンニバル』。ストーリーがすごく素敵で、映画の中でも特に好きです。ゲームだと『スプラトゥーン』シリーズがすごく大好きで制作作業の合間によくプレイしていました。料理も好きで調理の工程がクリエーティブに繋がるような気がしているので、空いた時間に試行錯誤することが増えました。
あとはヨーヨーのプロ資格も持っているので、ストレス発散のためにいつでもできるよう社長室のデスクにふたつ置いています。
とにかく多趣味なんです。趣味でもなんでも1個やったら極めたい人間なので。
色々なジャンルの楽しいもの、エンターテインメントとして吸収できるものは吸収できればと考えてはいるのですが、実際のところストレートに楽しんでいます。
次に増やしたい趣味
20代最初のほうに少し映像制作をやっていたんです。映像とかグラフィックがすごく好きで。自分のホームページに映像を載せて、それがすごく自分の中でもクオリティ高く出来上がって、そのホームページを百石さんが見てくれた事がきっかけとなって、メッセージを頂いたんです。
(映像制作をやるなら)引退してからですかね。仕事を引退したら自分の趣味でそういうのも作りたいなと思っています。

アニメの主題歌や劇伴を担当する時の自身の中にあるこだわり
こだわりはたくさんあります。
私のことを知ってくれている人はアニメ音楽の印象があると思うのですが、これまで携わったトータルの作品数でいうと半分くらいはJ-popアーティスト、ヴィジュアル系アーティストへの提供もやってきました。『でんぱ組.inc』さんとかもそうだし、『ももいろクローバーZ』さんや『T.M.Revolution』さんなど様々です。
『Tom-H@ck』と名乗ると世の中的にはアニメ音楽というイメージがあるので、アニメにフォーカスして「大事なものって何か」ということをお話ししようかなと思います。
一番最初に制作会社さんが「アニメを作ろう」となった時って、その段階では「音楽を作ろう」とみんなまだ思っていないんです。
例えば漫画原作のものがアニメになる時って、漫画とアニメとではまったく違う演出になるんです。音も出るし、動くし、色もついてるし、全然違う別の要素が出てきます。
アニメ音楽って主役のようで主役ではなく、すごくバランスが難しいものと思っています。
私の場合は、アニメ音楽制作のお話がきてから、脚本家さんが書いた台本をまずは全部見せていただきます。そして「あ、こういうお話か」と理解した後に、原作となった漫画や小説があればさらにそれも読むようにしています。なるべく全部目を通すようにしているのですが、巻数が多いとピックアップして読んだりします。
台本と原作を読んで、大体の作品の雰囲気を掴んで、自分の中でそれを嚙み砕いて、「ここに演出の隙間があるな」とか、足りないニオイみたいなものを頭の中で想像するんです。「こういう音楽が鳴ったら、この演出はもっと映えるんじゃないか」とか「こういうオープニングをつけたらこのアニメは想定とは違う路線でのヒット作品の雰囲気をまとうことが出来るんじゃないか」とか。
私はこれを「隙間を埋める音楽を作る」といつも言っています。それが私たち職業音楽家、ないしアニメーションに関わるアーティストに課せられている使命と思っています。
だから始める前に「どこかに隙間がないか」を探して「こういう音楽がいいよね」っていうのを作っていく。これはもう一貫して同じですね、どの作品でも絶対にやるのは。
大切なことはまだまだあるんですが、これが私がアニメ音楽を作る上でこだわる大事なことの1つです。
曲のアイデアが浮かぶ時
作曲家の中には、「悩んでも曲が作れない」という人はたくさんいるのですが、私の場合は作業机に向かって「よし作るぞ」って決めたら頭にすぐ出てくるタイプです。
なので今受けている取材の最中でも、作曲してくれと言われたらできます。いつでもできる、言われたらできるみたいな。
自分の中でスイッチみたいなものがあって「今は喋る時だ」という場面では表に立つスイッチ、「作曲をする」という時には作曲家のスイッチ。そういった自分の中にある切り替えのスイッチが付いたらいつでもできます。
それでも電話やメールがあり制作作業が中断してしまう事も多いので、私の1番の理想は目の前に作業机があって、「これから6時間くらいやろう」ってスイッチを付けて、そこから6時間集中することです。
アーティスト活動、社長業等に必要な意欲やモチベーションになるもの
すごく単純明快で、私自身が「世の中の森羅万象を知りたい」と思っていて、私以外の色々な人達が日々どんな生活をしているのかというところに興味がある。
普通は「有名なアーティストってどういう生活してるんだろう」って気にはなるけど、珍しい仕事や職業でもない限り他の人たちのことはあんまり気にならないことが多いじゃないですか。
私の場合は人間ひとりひとりに対してそういう興味が強い人間で、色々な人の色々なことのひとつひとつが気になる。
若い人が率直に発する言葉にもすごく考えさせられることが多くあって、今回のような取材でもすごい勉強になっています。
「自分が同じくらいの年齢の時ってこんなに喋れなかったな」みたいなことを考えると、初心に戻れるし、対峙した時に「こういうことを忘れていたな」と改めて勉強できる。
「世の中の全てを知りたい」。少し哲学的なのですが、私はそういう人間なので、色々な物事に挑戦したいんです。

どうしても受動的になると人間ってインプットされる幅が限定されるんです。自ら動いて活動の幅を広げたり、こっちに向けたりするとインプットの幅が180度、むしろ360度広がる。受け入れる体制って自分自身で作らなくてはいけないので。
そういう意味ではやっぱり社長業とかも実際にやってみると全く違うことがわかって勉強になったり、「自分はこういうところが足りないな」って気付いて、もっともっと努力して楽しんだり、苦しんだりして経験していくことで学べるわけです。そこで学べたことを変換して作曲に生かしたりとか。ベクトルやダイヤルを変えるのがやっぱり個人的に好きで、それが自分に合っているというか。
ひとつを極めるのもリスペクトすることですけど、自分のやり方としては「全部ある程度極めるけど、様々なチャンネルを多く持つ」ということが生きてて楽しいなと私自身が実感していて、挑戦するということが自分の根源にあると思っています。
クリエーターとしての信念や心構えなど
クリエーティブ業界に携わるかもしれない若い方々にぜひお話ししたいんですが、音楽リテラシーというものがあります。
専門的な音楽知識や良く出来ている音楽、音が良い音楽というのは世の中にたくさんあるのですが、でもそれとは全く逆の「みんなよく聞いているけど、実は音楽的にはあんまり良くないよね」という音楽も世にたくさん出ているんです。
大衆の心を掴む物を作れるってすごいこと。すごいことだけど、受け入れられたとしてもその音楽自体が本当に良いものかどうかというのが違っていたりするんです。
今の時代、世界的に見ると日本は結構音楽が遅れていると私は思っています。
日本の音楽は国内でドメスティックな育ち方をしているので、それが世界に出てもK-popのようにはならないんですよ。K-popは国が事業としてエンターテインメントに力を入れて、15年くらいかけて成熟させて、全世界に向けて出した音楽なんです。
日本はそういった海外と比べると補助が少なく、クリエーター自身も世界に向けて発信を志す人が少ない。私自身としてはクリエーターとして、音楽リテラシーをちゃんと上げて、なおかつ皆さんの手元に届くものを作りたい。
そして世界に出ても「あ、面白いことやってるね」と思われるような音楽の構築の仕方をする、ってことがクリエーターとしての信念というか、大事なことなのかなと思いますね。
ファンの方に伝えたいメッセージなど
すごくシンプルですが、「自分の音楽を聴いて、日々幸せに楽しくしてほしい」と思っています。それは世界の人たち、日本国内の人たちに対しても等しく思っています。
だから信念と一緒です。自分が苦しい時に音楽を聴いて救われたので、そういうことをみんなにも感じて欲しいなと。それは一貫して何十年も変わらないです。
仕事上での目標について
最近はキャラクター事業を始めたりもしているのですが、音楽もそうなんですが、実は最終地点は全部一致してます。
キャラクター事業自体日本のみならずアジアは強みを持っています。
私がこれまで手がけたものや、これから手がける色々な物事が、最終的に日本国内だけではなく世界に派生していって、大きなものになっていけばいいなと思っています。
それはもちろんこのCAT entertainmentというアーティスト事務所、キャラクター事業、音楽制作の事業もそう。携わっている全部が大きくなっていくようにしていくことが私の目標というか野望です。

未来を担う10代20代に伝えたいことについて
若い人たちには毎回言っているのですが、死ぬほど失敗してください。
失敗って全然悪いことではなく、それによって怒られたりする事は最高なんです! むしろ失敗したり怒られたりしないと、人間力が低下したまま大人になってしまうので。
失敗しまくって自分自身で「これはダメなんだな」「こういう時は違うことをした方がいいんだな」みたいなことを積極的に学んでほしいです。
人から言われてイラッとすることは、図星だからこそイラッとしますし、そもそも「この人は何を言っているのだろう」と相手の言っている意味や意図がわからないことでも、嫌な気持ちになる時もあると思います。私の経験上10年ぐらい経つと「あの時言われたことってこういうことなんだ」というふうにわかる時がやってきます。
自分の立場が上になってくると、やり方や言動とかに誰も「Tomさんあれ良くなかったよ」と注意してくれなくなるんです。立場が生まれてくるとどうしてもイエスマンになってしまう人間が周りに増えてきます。そうすると自分の人間力ってずっと低下したままになってしまう。
そういったこともあるので、若い人たちにはたくさん失敗して怒られたりして、その怒られたものに対して許容の心を持って欲しいなと思っています。「いつかわかるかもな」くらいに思っていても、後々良いことに繋がるので。
1番は「失敗すること」。失敗は他人に言われることではなく、自分が悪かったとはっきり自分自身でわかります。他人に言われて初めて気付くこともありますが、自分で「失敗した」とか「悪い」とそこで認識できるのが1番成長が早いです。
たくさん失敗してください。
クリエーターを目指す人に向けてメッセージ
楽しく長く、仕事をしてもらいたいです。
何事も楽しくないと続かないと思うので、楽しくやってほしいなと思っています。
Tom-H@ck様にとっての『未来』とは
不確実なもので、冒険しているとか旅しているみたいな感じです。何がどうなるかわからないし、思ってもいないことがすごく映えて「うおー!」ってなるのをこれまで何回も実際に経験してきました。
もちろん逆に良くないことも経験してきたので、何が起こるか全然わかんないですよね。それも含めて『未来」を楽しみにしてます。
(※文中スナップ写真は、全て取材時に撮影した取材風景)
●企画/本文構成:中村 倫
●撮影:鈴木 勇也
●取材&データ作成:中村 倫・土屋 愛馨・ 飯田 鈴馬
●WEB制作:中村 倫・高野 広輝
●掲載日:2023/2/10
取材メモ

音楽業界だけではなくアニメ業界でも有名なTom-H@ck様に取材をさせていただきました。
今回取材をさせていただき、Tom-H@ck様の音楽に対しての深い愛や物事に対する造詣の深さ、そして何より、クリエーターとしての強い信念に対しとても感銘を受けました。
私自身も今回の取材を通し、Tom-H@ck様のような強い信念と深い関心を持った人間になりたいと強く思いました。
貴重なお話をお聞かせくださり、ありがとうございました。この場をお借りして、改めて御礼申し上げます。
(中村 倫)