F interview 10
「株式会社メディアジーン」入り口
幅広い分野のガジェット、
技術に触れてきたから
こそ見える
「未来の景色」
株式会社メディアジーン
ギズモード・ジャパン
編集部
西谷 茂 リチャード
数多くのガジェットや技術が普及していく中、ユニークなガジェットや普及したら時代が変わるような技術について面白く、分かりやすく情報を発信している会社があった。
そこで、発信者としての心構えや最新技術を追っているリチャードさんだから分かる未来の移り変わりについて聞いてきた。
情報を発信する際に気を付けていることはありますか?
「多くの人に伝える」が編集部の大きな方針です。それには「満足感」が重要だと解釈しており、受け取り手が満足だと感じられる情報ならば人はまた戻ってくる、と考えています。そのためには『情報が有益である』『わかりやすく伝える』『面白くする』という3つの要素が特に大事です。情報が有益でも、わかりにくいと意味がありません。また、わかりやすく伝えても、面白くなかったら目を向けていただけません。
そして、それをさらに突き詰めてしまえば、「直感的にわかりやすいか」です。例えば専門用語を含んでしまうと、その専門用語の説明が必要になってしまうから、説明がわかりにくくなってしまう。広く伝える上では不便なのです。「直感的にわかりやすい」とは、すなわち「専門用語に頼らない」ことだと考えています。
そして結論を先に述べることも大事です。先に結論というゴールを示すことによって、聞き手のモチベーションを保つことができるのです。もちろんその結論も、わかりやすい言葉で伝える。もしくは「これがこうだから、こうです」といったふうに身近な例から問題提起を行うこともあります。既に理解しているものに結びつけて説明することにより、わかりやすく伝えることができます。「直感的」で「結論を先」に「身近な例」を使う。
これらの要素を心がけることによって、情報発信を行っている人たちと戦うことができるのです。
古い世代のガジェットについてどのように考えていますか?
自分が納得していれば何を使っても良いと思っています。ですがもちろん気をつけるべき点もあります。例として挙げるならばスマートフォンです。「去年の機種を使っているが、今年の最新機種を買うべきだろうか?」と悩んでいる場合、今年の最新機種の値段と、買うことによって生活にもたらされる利点は何か。
つまりコストパフォーマンスについてです。値段に見合った利点があり、バランスがとれているのならば今年の最新機種を選ぶのも良いと思います。それに加え、OSのアップデートもあります。OSのアップデートはおよそ3年ほど受け取れるのですが、2年前の最新機種を買ったとしたら残りのアップデートは1年ほどしか残っていないことになります。なので、それに納得できるかを考えるようにしています。また、『ソフトウェアのサポート期間』も確認するようにしています。自分が使うにあたってはそのふたつを特に重要視しています。
サポート期間内であれば、古いガジェットも自分が納得できていれば問題ない、ということでしょうか?
インターネットに関わるもの、スマートフォンやパソコンに関してはそう言えます。例えば電動ドライバーなどの「ネットに関係ないもの」は、使用に問題がなければ10年前のものを使っても良いと思います。つまり「機能性がネット頼り」のものには気をつけるべきだと考えています。また、クラウドサービスでも同じことが言えます。そのクラウドを運営している会社があと何年続いてくれるのか、といったものですね。なので、ベンチャー企業の製品ではそういった点も確認することが必要だと思います。
『ギズモード・ジャパン』が一番注目しているテクノロジーは何でしょうか?
AIに注目しています。チャンスでもあり、リスクでもあると思っています。私たちはすでに確立されたメディアですのでリスクの方が大きいでしょう。今の主なコンテンツは記事と動画です。記事だとChatGPTなどの『言葉を綴るAI』が発展している点に関して考えさせられています。ですが動画はまだAIが追いついていない領域です。仮に追いついたとしても、視聴者が生身の人間の動画に興味を持っていれば、まだAIと戦える場ではないかと思います。なのでAIを意識し、現在は動画にも力を入れています。
取材風景1:取材中も笑顔を絶やさずわかりやすく説明していただきました。
もし編集者になっていなかったらどのような仕事をしていたでしょうか?
そもそも他の道について考えたことがありませんでした。なので大きな括りになってしまうのですが、「文明の発展を加速させたい」と思っています。海外には『Science(科学)』『Technology(技術)』『Engineering(工学)』『Art(芸術)』『Mathematics(数学)』の頭文字をそれぞれとった『STEAM』という言葉があるのですが、その『STEAM』に深く関わることができる仕事をしたいです。最近では「AIが囲碁で勝った」、「ロボットが人間と同じように走れる」、といったSF的なニュースをよく見かけますよね。そういったSFな未来がいちはやく訪れるような仕事。メディアはそういった職場にすることができるかもしれない、と思っています。だから違う形でメディアに関わっていたかもしれませんし、STEAM関連の研究していた可能性もあります。
広くいろいろな情報を取り扱っていきたいからメディアを選ばれたということでしょうか?
人生について考えた際、「これをやるぞ」という具体案が出てきませんでした。それならば「やりたいことが見つかった時、それがなんであれ関わることができる職業」に就きたいと考え、メディアはそれを叶えるのに最適だと行き着きました。また、インタビューを通していろいろな方と知り合うことができ、新しいことを知って世界を広げることができます。
影響を受けた人物はいますか?
いろいろな方がいますが、ひとり挙げるとするならばレイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)という学者の方から強く影響を受けました。近年『シンギュラリティ』という言葉をよく聞くと思います。AIが自己フィードバックを繰り返すうちに人類以上の知能を得る、という仮説です。AIが人類を超えた場合、その先でAIが何をするのか。それを人類には予測するすべがありません。それを物理学におけるブラックホールの特異点に見立て、『特異点』と呼ぶことを広めた人です。
その方が著作の中でシンギュラリティを説明する際、「収穫加速の法則」を説明しているんです。例えば「今スマートフォンを持っている人は何十年前のアメリカ大統領と同じくらいの情報量を得ることができる」といったもの。要は、ひとつのイノベーションが起きると、それが次のイノベーションをより早くもたらすことができるのです。
昔の人は何かを調べる際に図書館に行ったり、知識を持っている人に尋ねる、と手段が限られていたのですが、今はスマートフォン1台で世界中の情報にアクセスできるので、誰でもイノベーションを起こしやすくなっています。今はその手助けをしてくれるAIも出てきたり、いずれそれを具現化するロボットも出てくるでしょう。そうしてひとつの技術革新が次のものへどんどん進んでいくので、イノベーションがどんどん加速していくのです。それをわかりやすいグラフで表していて、それによるとシンギュラリティが起こるのは2045年だと言われています。それを知った際、「ひとつのことを研究している場合じゃない」と思いました。そこから人間をより理解したいと思い、メディアの仕事に就きました。人生の分岐点、という意味では、レイ・カーツワイルさんに一番影響を受けました。
今後どんな情報を取り扱っていきたいですか?
できることなら、誰か、もしくは社会に大きな影響を与えうる情報。そしてあまり知られていない情報を伝えていきたいです。例えばシンギュラリティは誰かが考えた結論ですが、最終的に全員がそれぞれの結論に行き着くことが理想だと思っています。誰もが考える力を持っていて、前提となる情報やロジックがもっと世に広まっていれば、いい判断ができる人が増えて、もっと良い世の中になっていくのでは、と思っています。
今後の目標等はありますでしょうか?
やはり、文明を加速させたいです。テクノロジーは善悪で語られることがありますが、テクノロジー自体は多くの場合悪いものはありません。使い方に善悪があります。悪い方の使い方に、今のところ適切な止め方がないのです。悪い人はいつの時代にもいて、どんなテクノロジーもそういった人に使われてしまいます。良い使い方が広まればそれを止めることができるのです。良い使い方が先に広まれば悪い影響を抑えられます。良い使い方を広めたい、広まらないのであれば、悪い使い方の対処法を広めたいです。
文明を良い方向に加速させたい。そのために、必要な情報とその出し方を工夫したいです。道筋を示すと言うより、「こういう考え方、未来がいいよね」という提案がしたいです。賛同していただける方がいれば嬉しいですし、それ以上に良い提案も出てくればもっと良い、指摘もあれば改善にも繋げられます。正解よりも、幸せの形や、行き着くための手段を考える人が増えて欲しいです。
未来はどのように発展していくと考えていますか?
人類の「種としての自由度」が必ず上がると思っています。例えば、二万年前まで僕らの生活は自然の摂理に必ず支配されていました。「ライオンには絶対何十人もいないと勝てない」「水道がないから水は川まで汲みに行かないといけない」といったふうに。ですが技術や文明が発達するにつれて、環境を自分の好きなように、変えることができるようになりました。水が欲しければ水道を引くことができる。誰もがいつでも綺麗な水を手に入れられてる。今では自販機もありますし、寒いことがないようにエアコンもある、というようにどんどん『自由度』が上がってきています。
例えば超伝導物質があれば地球一周する電力網を作ることができるはずです。地球の片側は必ず太陽が出ているので、昼間の土地でソーラー発電させたものを同じ時間に夜のところに持っていくことができる。これまでの電線だったら、電気抵抗があったからできなかった。ですが超伝導だったらロスなくできるのでいろいろ自由度が上がっていくと思います。
他にも、今だと何十万人いないと数百万台の車が作れません。ですがAIやロボットが発展すれば、自分の理想的な車を、ひとり十台も持てるようになるかもしれない。といったふうに、種としての自由度が上がると思っています。ただ、結局私たちは法に縛られているので、それが個人の自由度に繋がるかどうかはまた別の話ですが。
私達の住む環境を作り変えることはできるので、自由度は上がりますが、責任も伴われます。そうすると悪い政治体制、窮屈な政治体勢も作れてしまう。もしくはある意味で本当に自由な世界も作れる。それが何十万人、何百万人に提供されるので、できることは増える代わりに、考えるべきことも増えるので、大変な時代だなと思います。
今後、ゲームのあり方は、どのように変わっていくと思いますでしょうか?
ゲームそのもののプレイ体験の面と、そのゲームが担う役割が変わると思います。プレイ体験ならば、もっと自由度が増す。昔ならばワンステージあって、ゴールにたどり着けば次のステージに。画面も左から右への一方向、と二次元的な動きしか出来ませんでした。ですがそれが3Dになり、今ではオープンワールドにまで発展しました。
とはいえオープンワールドはまだ「作られた世界」、ロジックに従って動き続けるだけの状態です。ところがそこにAIが加われば、オープンワールド以上のものが作られるかもしれない。キャラクターにもAIが関わったとすれば、限られた数しかないエンディングが無限に広がるかもしれない。オープンワールドの後は、オープンシナリオが来ると思っています。それがプレイ体験の次の段階かなと。
ゲームの役割は、良くも悪くも増えていくと思っています。メタバースのような、バーチャル世界に人類が進んでいくと思います。そしてバーチャル世界で起きたことが現実世界に反映される。バーチャルとリアルがつながっていくのかな、と。
生活もさらにデジタル化が進行していって、それを支えるためだけに寝食するようになるかもしれない。なぜなら、ゲーム世界の方がより刺激的で私たちが満足しやすいからです。なので、どんなゲーム世界を作るのかということが重要になってきますが、中毒性が高く実利が少ないゲームですと人類全体としての生産性が下がってしまうので「すべての人にとって有益で楽しいゲーム世界」を作っていくことが必要だと思います。
フルダイブ型VRについては?
AIの補助によって実現すると思います。例えば、私は私以外の人間の感覚を完全に理解することはできないですが、AIならばそれができるようになります。なので、AIがその人の感じていることを理解してゲームに反映し、ゲームの反応をフィードバックすることで実現すると思います。
今、追っておくべき最新技術はなんでしょうか?
今ならAIだと思います。今後すべてにAIが影響してくるので、抑えておいた方が選択肢が広がると思います。
現在急速に進展している技術に取り残されないように今の私たちでできることは何だと思いますか?
メンタルを整えることです。例えば、文字を書く創作は人間の領分だと思われていたのが、今はChatGPTで半分くらいできてしまう。こういうことにショックを受けて落ち込むのではなく、「面白い!」と感じることのできるようにメンタルを整え、共存できる人が強いと思います。
AI等に対抗するのは難しいのでしょうか?
対抗の形によると思います。例えば、車が普及したことにより馬車は使われていないですよね。これはつまり、馬を扱うスキルにこれまで通りの価値はないということを表しています。今ならば、車を運転できる人のほうが馬を扱う人より稼げるように思えますが、競馬や馬でパフォーマンスをするといった、馬が活躍できる世界を作ることできればその中で生活することができます。このことから分かるように、「これまでの世界を保ち続ける」より「得意なことが活かせる世界の枠組みを作る」ことが重要だと思います。
イラスト生成AIにイラストレーターはどのように応じたらいいのでしょうか?
「ブランド力を上げること」が大事だと思います。例えば、既にファンがいるイラストレーターの描いたイラストのほうが、イラスト生成AIで作られたその人そっくりのイラストより価値があると思います。その「価値を最大化」することが重要だと思います。他にも、自分で描いたイラストをAIに読み込ませ、格安でその人が描いたようなイラストが手に入るサービスを作るなどして『利便性』で対抗することができると思います。