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  • 執筆者の写真長澤 尚輝

作家は時代の神経である コロナ禍のクロニクル2020→2021

更新日:2023年11月30日



著者:高村 薫

出版社:毎日新聞出版


 「作家は時代の神経」――書店で見かけたこのタイトルが目に留まった。今年度のテーマが「未来」ということもあり、とりわけクリエイターの感性というものには敏感になっていた折に、その端的なワードに心を惹かれたのだ。


 本書は毎日新聞出版より発行の週刊誌『サンデー毎日』にて、著者が寄稿した「サンデー時評」を再構成したものである。内容としては世界中で起こった事件・事故・異変を取り上げ、危機感の薄い日本社会に向けて警鐘を鳴らすものがほとんどである。そのため、強い言葉による批判が数多い。これらの時評を読み進めるたびに、現代の日本政治にはまるで正論が通用しないことを思い知らされるだろう。



 本書のタイトルは担当編集者の提案によるものらしい。その出典は小説家(故)開高健氏が、1960年に雑誌に寄稿したポーランドの旅行記の一節とのこと。そして作家である著者自身は、自分が時代の神経などとは考えていないと記している。それでも雑誌に時評を寄せる上で、日々の出来事の中で自分が肌で感じたことを言葉にしているのだという。間違ってもテレビと新聞の前で管を巻いてるだけ、などと呼ばわってはいけないのだ。


 本書のあとがきは“(日本から)世界に誇れるもののほとんどが失われたからといって、直ちに絶望する必要はあるまい”と締めくくられている。その上で“デジタル化が人間の文明にとって最善の解であるとは限らない”、“未知のウイルス一つで脅威にさらされることもある人間の暮らしの脆さについて、まずは静かに考えてみるとき”とも語っている。未来と言われて紋切り型に思いつく「デジタルの極み」な社会が、果たして幸せなものなのかどうか。あまたのSFで示された未来の結末を、今一度見直してみるのもいいかもしれない。


 なお、これらの時評は2021年5月以前のものなので、2022年の出来事は当然ながら記述されていない。つまり2022年7月に、日本全国を震撼させた安倍元首相暗殺についてのことは掲載されていない。著者の時評がもっと気になる方は、今年の夏頃に出る2022年度クロニクルの購入について検討してみることをお勧めする。



Text:3年 長澤 尚輝

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