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現在、『老いパーク』という展示がありますが、このテーマを取り上げた意図をお聞かせください

『老いパーク』は、誰にでも訪れる老化現象を疑似的に体験し、将来身近になるかもしれないサポート技術などを展示を通して知ってもらう事で、自分らしい老いとの向き合い方を考える展示です。

 

未来の社会課題を自分のこととして考える場にしたいという、館長 浅川智恵子の想いが込められています。

 

「老い」というのはネガティブに語られることが多くあります。社会生活を送るうえで、できることができなくなってしまったり、見た目の変化をマイナスに捉えてしまう方もいると思います。ですがそうではなく、科学的にいえば「老い」というのは「経年変化」でしかないのです。そこにはポジティブでもネガティブでもどちらでもないということも感じていただけたらと思います。

自分らしい「老い」について考えることが、『未来逆算思考』と少し関連付けられているように感じましたが、そのあたりはどうでしょうか?

 

特別に関連付けていることはないです。ただ、お客さん自身に考えてもらえるような仕掛けや問いかけはどの展示にもしてあります。そのうえで、なにかとなにかを紐づけていただいたら、それがひとつの答えになっているのだと思います。

 

ロボットをテーマにした展示『ナナイロクエスト』では、最後に「あなたならロボットに任せたくないことはなんですか」など、複数の問いかけを用意しています。

実際に展示を体験した後に問われると、正解がないからこそ少しモヤモヤすると思います。自分自身がどう答えるかも悩むと思いますし、みんなはどう答えたのかも気になると思います。

ですので、最後のエリアは答えが同時に見られるような空間になっています。

 

そこで他人の回答をいろいろ確認してみてほしいです。同じ質問に対しても、一人ひとりスタンスがまったく異なることがわかります。

そしてそれぞれの価値観の違いを認識しながら、改めて自分の考えを整理してみてほしいと思います。

大人気ブースの一つである「ナナイロクエスト」ですが、この人気の秘密とその仕掛けについて教えてください。

 

人気の秘密と言えるかわかりませんが、展示の体験シナリオを企画・制作するにあたり以下の点を工夫しました。

・実際のロボット工学の研究や倫理的・社会的課題などをふまえた3つのシナリオを用意することで、来館者が少しでも身近に感じられる体験を提供すること。

・AIエンジニアとしても活動するSF作家や、リアル脱出ゲームをはじめとした体験型ゲームを手掛けるチームと共同制作することで、楽しみながら、より自然に未来のまちの物語に没入できること。

 

なお、リッチな展示体験にしたいという企画担当の思いから専用タブレットを使う体験となりました。そのため、他展示と比べて一度に体験できる人数に限りが生じます。その分整理券を取るために待ち列が生じることもありますが、「未来逆算思考」の例でもお話しした通り、展示担当と、来館者の安心安全のために運営するチームと、事前によく相談し、今の形になりました。

 

「ナナイロクエスト」の3つの体験シナリオの中で人気があるのはどれですか?ゲームの体験時間が意外にも長いのですが、クリアできなかったりすることもありますか?

 

「ともだちロボットツアー」は体験推奨年齢の幅が広いので、選択される方が多いのではないかと推測しています。難易度としては、展示体験中に出されるヒントを参考にしていただければ、時間をかけてもクリアできるように配慮しています。体験時間が長めに設定されているのは、ロボットと人間の関係をじっくり考える時間としていただきたいという展示制作者の思いが込められています。

 

投稿エリアに寄せられた感想などでその面白さを伝えたいと思うのですが、お伺いできますか?

 

最後の意見を投稿するエリアでは、来館者は質問に対する「回答」と「その理由」を記入してもらう設定です。例えば、回答自体は同じでも、その理由はそれぞれのバックグラウンドや考え方が反映されていて千差万別です。人間とロボットの関係についての考え方は多様であることが改めて感じられ、興味深く拝見しています。

 

実際に「老いパーク」では様々な人が体験型展示を楽しんでいました。特に「おつかいマスターズ」の一番こだわった点や運営後に工夫した点について教えてください。

 

最も注力したのは、ただの記憶力ゲームにしないという点です。短期記憶、注意力、処理速度の低下を疑似的に体験する工夫を多数ちりばめました。

 

おつかいリストを覚える作業と思い出す作業(買い物する作業)の間にチュートリアルをはさむとか、思い出す作業を突然中断してさらに覚える作業を行うとか、紛らわしい商品を並べるとか、細かな工夫はこの他にもたくさんあります。結果を点数化しないのもただの記憶力ゲームに終始させない工夫です。

 

また運営的な観点で言うと、アクセシビリティを高めることを重視しました。ソフト面では、日英中三言語に加え、視覚障害者向けモードを作り、ハード面では、車いす利用者や子どもでも体験できる展示台の高さや広さ、形状の設計等を行いました。
 

今後の日本科学未来館の姿、あり方について、思い描いているものはありますか

 

未来館が目指すのは、お客さん自身が主人公になるミュージアムです。

一人ひとりが可能性を思い描くために、先端科学技術を体験しながら、どういう未来を作りたいかということを話し合い、自分自身が未来をつくる人なんだと認識してほしいです。

 

浅川が館長になって以降、「多様な人とともに」というフレーズが意識的に書かれていると私は考えています。

今までに「みなさん」と言ったときに、どれだけの人を想像していましたか。そこには視覚障害の方や聴覚障害の方、さらには海外の方など、どこまで含まれていたでしょうか。

そうした多様な人に伝えるための工夫がまだできていないので、しっかりと取り組んでいきたいと考えています。障害があってもなくても主人公だし、そういった方ともどのように未来を作っていきたいかを考えていきたいです。


 

今の10代、20代に伝えたいことはありますか。

 

今の10代、20代の方はすごく大変な時代に生きてると思っていて、ニュースでも就職や経済の話とかが厳しいと取り上げられていて、未来を考えることさえ大変な時代だと思います。

そこでぜひ、未来館に来てもらって「自分の未来をちょっと考えてもいいな」とか「希望持ってていいんだ」「希望、未来について語ることはダサくない」とか、ちょっとした心の機微みたいなものに正直になってもらいたいと、思っています。

 

生まれてから身の回りにSNSがあったりするような世代だと、人からどう見られるかとか、すごく気になると思います。ですが、 そういったことを気にしないで「自分がいいな」と思ったことを、自信をもって間違ってもいいから突き進んでもらいたいと思います。


 

クリエーターを目指している人に一言メッセージをお願いします。

 

自分が持っている『バイアス』に気付く、ということに敏感になることが重要だと思っています。『バイアス』というと、ちょっと偏ってるかもしれませんが、例えば「ちょっとこれ違うんじゃないかな」と感じたら、そこをみんなにわかるように伝える。そういったところがクリエーターの力だと思うので、「そこは誰も気づいていないし、世間の空気的にはそうじゃないからいいか」と思わずに、泥臭くこだわる方というのは、一緒に仕事をするととても楽しいです。

あなたが持っているその違和感はとても大事で、ダイヤモンドの原石だと思います。

 

宮原様にとって「未来」とは。

 

私にとって「未来」は、『自分次第』ということですかね。誰かにお任せできるものではありませんし、 自分次第でどうにでもなるものだと思います。

「将来、こうなりたい」という目標があれば、そこを目指して逆算し、自分から行動を起こしていくものだと思います。昔言われていたような「未来の可能性がある」という感じではなくて「あなた次第で、未来はいかようにでも可能になる」というように思っています。

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取材風景2:学生たちに話すように気さくに、わかりやすく話していただきました。

​取材メモ

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今回、私は初めて主体となって取材をさせていただきました。

今まではアシスタントとして参加していたため、普段とは少し違った緊張感がありました。

日本科学未来館に到着したとき、スムーズに取材を進めることができるのか不安になりましたが、宮原さん、長田さんが温かくお出迎えしてくださったおかげで緊張感もほぐれ、順調に取材を振興することができました。

今後もこの経験を生かしてたくさんの人からお話をお伺いしていきます。

大変お忙しい中、取材をお引き受けしてくださりありがとうございました。

(飯島 太陽)

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