
-未来を担う10代、20代に伝えたいことはなんでしょうか。
痛い目にあうことを恐れず、自分の衝動を大事にしてほしいです。
自分の感覚を信じ、ためらわずに、なにか気になることがあればどんどん進んでいってほしいです。
そのとき、思ったことと違ったとか、ボコボコにされたとかいろいろあるかもしれませんが、そのときは早めに撤退すればいい。
衝動というものは確実に自分の中にある人に譲れないものです。それを信じてください。
-クリエーターを目指す人たちに向けてメッセージをお願いします。
適当なところで妥協せず、より深く、広げていってください。
みなさんは表現の喜びというものをよくわかっていらっしゃると思います。そういった自分の喜びや快感というものに貪欲になってください。
逆に、不快なもののほうも突き詰めていくべきだと思います。それらは光と影のような関係で、影が濃い方が光も明るくなりますし、光が明るくなれば影も濃くなります。
そして、最初から自分に対して枠をはめないでください。絶対に嫌だと思っていても、口に入れたくないと思っていても、食べてみると実は美味しいということもあります。
良いことに関しても、悪いことに関しても、そこで終わりではありません。嫌だと思うものは無意識のうちに目をそらしてしまいますが、実はそこはとても大事なところです。
それから、表現というものは表に現れるもので、形としてあるものなのですが形には収まりません。
小説であれば、書かれた言葉は実際に見ると本当にごくわずかで短いものです。しかし、そのバックグラウンドに書かれなかった言葉というものが無限に広がっています。それは小説に限らずすべての表現でもそうだと思います。
作品は、目の前に形あるものとして評価されます。しかしその魅力的な作品の背後にはそれだけの闇が広がっているものだと思います。
-大西先生にとっての未来とはどのようなものでしょうか。
これまでやってきたことの全てを多くの人に広め、役立ててもらいたいです。
60代になってから自分の仕事の終わりというものを考えるようになりました。フリーランスなので定年などはないのですが、いつか自分で線引きしてやめなければなりません。
今62歳なので、あと何年第一線で働けるのだろうかと。それと残りのその時間の中で自分はなにをやりたいのだろうということを具体的に考えるようになりました。
2024年から『みんなの校正教室』という校正教室を始めました。校正の知恵やスキルを、生活や仕事の言葉のコミュニケーション、文字情報の扱いに役立ててもらえたらという、一般の方向けの校正教室です。
それをもっと広めたり深めたりしたいというのが、これからの5年の中にあります。ちょうど『みんなの校正教室』のテキストを制作していて、それが2025年1月10日に刊行されます。
本屋さんで手に取ってみていただいて、おもしろそうであればぜひ買ってください。
あとは、これは子どものころからの夢なのですが、実は化石人骨になりたいと考えていました。私が死んだあと、私の肉体が滅びたときに骨だけが残って化石となり、それを100万年後に考古学者が掘り出してくれたらうれしいですね。
それがいちばん遠い未来です。

●企画/本文構成:森 暉理
●取材:森 暉理、加賀爪 玲哉、石川 剣門
●撮影:石川 剣門
●WEB制作 : 森 暉理
●掲載日:2025/2/25
【取材後記】
伝説的な校正者の大西寿男先生にお話を伺うことができました。
普段関西の方にいらっしゃる方なのですが、大西先生のお仕事の関係で運良く東京で直接取材することに成功しました!
今回、取材受諾のメールが来た日から3日後の取材ということで、急いで準備をすることになりました。しっかりと準備ができたのは手伝ってくださった先生のおかげというのもありますが、自分自身も成長しているんだなと少し感じました。
早めに取材場所に着き、準備をしながら大西先生を待っている段階で、私はとても緊張していました。しかし、大西先生は物腰の柔らかい方で、緊張がみるみるうちにほどけていったのがとても印象深かったです。お話を聞いて、その物腰の柔らかな姿勢に積極的受け身の姿勢が表れていると感じました。
大西先生は他の方と比べてもかなり多めに話してくださった方でした。おかげさまで「編集」というものをしっかり出来たのではないかと思っています。
ただ、去年よりは早いとはいえ、原稿の制作にはかなり時間をかけてしまった点がとても悔やまれます。もし来年があったらこの点はもう少し早くしたいと考えています。
大西寿男先生、取材にご協力いただき、誠にありがとうございました。(森暉理)